top of page

■ 聞こえない声に、耳を澄ませて 2

「あ……っく……ぅ」

 ベッドの上で、肩を震わせながら背中を丸めるシロを見つめて、ユキが喉の奥で笑う。

「予想以上にがんばるね」

 媚薬入りのローションを内部に塗り込められた身体が、意思に反して勝手に火照る。腹の奥がじんじんと疼いて、後孔が物足りなそうにひくつく。はあはあと荒い息を吐いてシーツに顔を押し付けたが、それだけで腿が痙攣するくらいの強烈な快感が全身に走った。

「シロさんのエロい姿見せつけられて、俺もそろそろ限界なんだけど。……まだがんばるの?」

「……っ、る……さ……っ」

 猫とは言っても獣人には発情期はないはずなのに、薬で強制的に発情期にされてケモノに戻された。それが屈辱的でたまらない。だから絶対におねだりなんてしてやんない、そう決めたのに、そんなシロの意地自体をユキは楽しんでさえいる。
 震えるシロを片腕で抱き寄せて、端正に整ったその顔でにっこりと笑った。

「じゃあ、素直じゃない悪いシロさんは、縛っちゃおうか」

「え」

 邪気たっぷりに笑いかけて言われたその言葉に、頭が追いつかない。
 固まるシロの右手を掴んでユキは、右手首と右足首、左手首と左足首をシーツの端っこで結び合わせた。

「ユキ……っ!」

 手首と足首を縛られて、強引に身体を開かされたシロはベッドの上でもがく。まな板の上に乗せられた魚よろしく、じたばたと暴れるシロを見下ろしながらユキは手のひらを両足の間に滑らせていった。

「とろとろだね、シロさん」

「っや……ぁっ」

 ユキの指先が窄まりを撫でるだけで、そこがひくひくと歓ぶのが自分でもわかる。ぴくぴくと反応するシロをユキがじっと見つめる、その視線が突き刺さるように感じた。
 つぷ、と指が中に入り込んでくる。二本同時にぐちゅりと挿し込まれても、ドロドロになったそこは快感しか拾わない。内壁を刺激し始めるユキの指を、言うことを聞かぬ欲望がすぐにぎゅうっと締め付けてさらに雫を溢れさせた。

「っぅ、……あ、ぁっ……ぁぁぁぁっ」

「ね、シロさん。今日はどうして欲しいのか言って?」

 片方の手で中の具合を探るように動かす一方で、もう片方の手がシロの頬に触れる。無理矢理欲望を曝け出させようとしている鬼畜なその声と裏腹に、その手は優しくシロを撫でた。

「シロさんが嫌なことはしたくないんだ。だからここも、触るなって言うなら触らない」

 ここ、と言いながらユキの指は熟れて膨らんだ快感のしこりを刺激する。前立腺を押された瞬間、シロは縛られたシーツが肌に食い込むほどの強さでのたうち回った。

「っぁぁぁああ……!!……っあ、っ、……そこだめっ……やだ、あ、ぁっぁ……」

 涙がぼろぼろこぼれて止まらなくなる。強烈な快感はもはや苦痛に近い。ぶんぶんと頭を大きく振り、縛られた手足を震わせるシロの額にユキは唇を落とす。慈しむようなその仕草にシロの碧の瞳からまた涙が溢れた。

「あ……ぁ、ぁ……」

「だから、ね?シロさんどうして欲しいか言って?……シロさんが望むことなら、どんなことでも、何でもしてあげる」

 色を含ませた甘い声で囁きながら、ユキはとろけるような極上の笑みを浮かべる。だがその目の奥には獰猛な光が見え隠れしていて、シロに狙いを定めた肉食獣がその喉笛に噛み付けるのを今か今かと待っているのが嫌でもわかった。
 隙を見せたら喰われる。それはわかっているのに、熱を帯びる身体が言うことを聞かない。そんな葛藤を読み取ったように、内部を圧していた指がずるりと引き抜かれた。その感触にシロは、口をパクパクさせて悶える。

「シロさん……?」

「……っ、ゆ、……き……っ」

 砂糖菓子のように甘くとろける声に相反する、捕食者の視線にかえって身体の熱が増す。もう喰われてしまえばいいじゃないかと囁く欲情が、意地を無視して勝手に口を動かした。

「っぁ……ぅ、ゆき、ぃ……」

 発熱したシロの頬をユキの手が、掌のうちに包み込む。ひんやりとした心地よい感触に、最後まで抵抗していた心が落ちた。

「ふ……ぅ、ぁ……っ、れて……」

 見上げるシロの潤んだ瞳を、穏やかなユキの目が映し出す。

「ユキが、……っあ、……ぁ……、ユキが欲し……っ」

 ユキに縋り付きたいのに縋り付けない。縛られた手足はシーツに括り付けられたままで、腹の上を自らの先走りがとろとろと垂れ続けている。そんなシロの恥ずかしい姿をゆっくりと視姦して、ユキは満足げに喉を鳴らした。
 唇を目蓋の上に落として涙を舐め取る。そうしてシロの頬に当てたままだった手を後頭部にずらして、さらさらの髪に絡めながらシロの唇に唇を落とした。

「んっ……ぅ」

 舌が唇を割り開いて、奥へ奥へと入り込んでくる。ユキの舌がシロの舌を絡め取ったその瞬間、硬いペニスがシロの窄みに押し当てられて、ぐぐっと中を貫き始めた。

「んんんっ……!」

 塞がれた口に悲鳴は飲み込まれる。強く疼くまま放置されたそこは、ユキの性器を喜んで食い締めた。

「っは、……っ。やっぱシロさん、中もとろとろだね……」

 媚薬で熱く溶けたそこに突き込むユキも荒く引きつりがちな息を吐く。苦しげに歪んだユキの表情には、綺麗なだけではない色気が存分に含まれていた。

「っう……んんんっ、……ぁ、や……あっ、ぁ、ぁ……」

 引きずり出してまた突っ込まれる、その繰り返しのうちにどんどん奥へ奥へと願う気持ちが強くなる。奥、奥、もっと奥。指では届かない奥へと突き上げて欲しいと欲望が腹の奥で爆発する。

「あっぅ……あ、それいっ……、や、ぁ……っい……」

「シロさんここがいいの?気持ちいい?」

 激しく腰を打ち付けながらユキがシロの唇を舐め回す。拘束された手足をじたばたさせて、シロは無我夢中で頷いた。
 シロを強く抱き寄せて、ユキは一段と激しい動きで叩きつけてくる。深く息を吸って快感を散らすことさえ許さぬと言いたげに、喘ぎを漏らす口をユキの唇が塞いで閉じた。
 暴れるシロの舌を絡め取って舐め上げて、より口づけを深くする。目の前が真っ白になって失神しそうになるシロの肌にユキはギリギリと指を食い込ませた。より深く深くへと抉ってくる動きがにちゅ、ぐちゅっと音を立てる。シロの意識がふっと遠のきそうになった瞬間、ペニスが熱い精を放つ。それと同時に、腹の中でもユキの精液がぶち撒けられたのを感じた。

「……ん…」

 虫の息のシロをそれでも手離さず、ユキはキスを続けたまま甘ったるい息を漏らす。
 甘えてすり寄ってくる気配を感じながら、シロの意識は今度こそすうっと遠のいていった。

□■ ← ・ → ■□

bottom of page