■ きみを縛れたためしがない 15
今にも倒れて死んでしまいそうな呼吸の中で、ぴくぴく痙攣しながらシロの放った精はユキの舌に絡め取られて、ユキの胃の中に収まる。
頬を紅潮させながら肩を上下させるシロの手首をようやく解放して、ユキはシロの頬に唇を当てた。
もやもやとした気持ちが広がる中、ユキはシロを愛おしそうな目で見てそっと頭を撫でる。
「今、身体拭くね」
手を放して、立ち上がろうとするユキをシロは痺れる手で慌ててつかむ。
「ユキは……?」
達した刺激がまだ色濃く残る舌で問うと、ユキはシロの頭を撫でながら優しく微笑む。
「俺は、今日はしない」
ちょっと待っててね、と言って洗面所の方に向かおうとするユキの言葉が一瞬、全く理解できなかった。
「待って、ユキなんで……っ?」
慌ててユキの腕を掴んで引き止めて、誘う視線を向ける。けれどユキは、薄く笑ってシロの頬に指先を伸ばした。
「まだ出し足りないの?もう一回舐めてあげようか?」
ふわっと柔和な笑みを浮かべるユキに、シロの手が震える。
「そういう意味じゃ……」
ユキとセックスしたいのは、何も溜まったものを発散したいからだけではない。一部の隙もないほどにぴったりとくっ付いて、一つになる歓び。その幸せを教えてくれたのは他ならぬユキなのに。
服越しでもユキのペニスが辛そうなくらいぱんぱんに張っているのがわかる。なのに拒絶されたのだということがじわじわと心を蝕んでいって、シロはショックのあまり言葉を失った。
呆然としたままのシロをあっさりと見捨ててユキは洗面所に行き、絞ってきたタオルでシロの身体を丁寧に拭いた。何度も濯ぎに行き、指の一本一本まで丁寧になぞる。
慈しむようなそのしぐさに、限界まで我慢していたシロの涙がぽたぽたと落ちた。堰が切れたら止まらなくなって、嗚咽を漏らしながらシロは「やだ」と項垂れた。
「そんなの、やだ。ユキが欲しい」
挿れてとねだるシロに、ユキは思い切り苦笑いをして、涙にぐちゃぐちゃになったシロの顔を引き寄せて、ちゅ、と唇を触れ合わすだけの優しいキスをした。
熱も欲望も快楽もないキスは、嘘偽りもなく誠実で、ユキに愛されていることだけがどうしようもないくらいに伝わってくる。
なのに手を出そうとしないユキにシロは唇を噛んで、ユキの胸ぐらをつかむとそのままベッドに押し倒した。
「シロさ、……」
そのまま噛み付くようなキスをする。ユキの舌を絡め取って夢中で吸っていると、ぐるりと身体が反転して、逆にベッドに押し倒された。片足をぐぐっと押し広げられる。
「そんなに、俺が欲しいの?」
「んっ、……っふ……」
間近にあるユキの唇に吸い付きながら、こくこくと何度も頷き、なおも手を伸ばしてきつく抱きつくと、ユキは小さくため息をついて突き出した舌をシロに与えた。子どものようにシロがそれをちゅるちゅると吸って味わう間に、前を寛げて取り出した硬いものをシロの尻の谷間にあてがう。
はやくはやくと急くシロを宥めるように、少しずつ様子を見ながら、ユキはゆっくりとシロの中へと侵入させる。
「っ、……ぅ……っ」
ゆっくりと、だが確実に入り込んでくるペニスに、ずず……っと摩擦された内壁が熱を帯びる。
「っ、んんっ、……あ……っ」
根元までみっちりと結合しても止まらずに、ぐちゅっと奥を突き上げられ、シロは必死でユキの縋り付いた。ユキの首に腕を絡めながら、シロはぴちゃぴちゃとユキの舌をしゃぶる。ようやく与えられた心身の満足感が快楽を上回る。
「っ、シロさん、ちょっと力抜いて……っ」
「ぁ、……あっ……あ、あ……」
「ったく、聞こえてないな……。今日はヤらずに、焦らそうと思ったのに……」
深々と挿入された状態でぐちぐちと腰を押し付けられると、いっぱいになったあそこがじんじんと疼く。さっきまでずっと聞けなかったユキの声が耳許から届いて、それだけで優しく揺さぶられるような桃色の陶酔感に包まれた。
ベッドの上でがくがくと揺さぶられ続ける身体。ユキが腰を引くのに合わせて口がだらしなく開く。喘ぎ声が絶え間なく漏れて、深くまで貫かれた時は下腹に力がこもり、あそこが性器を締め付けた。
「っ、あ、……あぁっ、あ、……ゆき、ゆき……っぁ……!」
「……っあー。発情したシロさん、やばいくらい可愛い……」
シロの身体を抱きしめながらユキがぱんぱんと腰を振るう。ぐちゅ、ぬぶ、にちゅっと攻め立てられて、もどかしさを含んだ快楽がシロの中で猛烈に強くなる。
もっともっと強く。疼きを鎮めて、深く突いて。一つになりたいと欲望が叫ぶ。
「ひぃっ……ぃ…あ……あぁっ、……もっ……」
我慢できなくなったシロは、ユキの肩にがじがじと噛みつきながらユキの背中に縋り付く。噛みつかれてくすぐったそうな顔になったユキが奥の奥まで貫き通して、次の瞬間どぷっとシロの腹の奥に精液を吐き出した。同時にシロの先端からも透明な液がたらたらと垂れ落ちる。
「……はぁ」
艶かしいため息をついたユキの吐息が耳にかかり、シロの身体がふるりと震える。
だが引き抜こうとしたユキに、縋り付く腕に力を込めて、それを全力で拒否した。
「シロさん?」
「ん、ぅ……」
くちゅくちゅと音を立ててユキの耳を食むシロに、やわらかく破顔したユキがその頭を撫でた。
「まだ離れたくないの?」
問いかけに、こくこくと頷くシロに、そっか、と呟いてからユキは少しはにかむ。それから、シロの身体をぎゅっと抱きしめて、そのままころんと横たわった。
「まあいいや。今日のところは負けてあげるよ」
シロを愛おしむように見つめたユキがそっと目尻に触れる。シロの頬をなぞり、最後に唇に触れる。
「大好きだよ、シロさん」
口付けてくるユキを受け止めながら、シロも小さく、俺も、としびれた舌で返した。
「ユキ大好き」
ずっとだいすき、と小さく囁きながらぎゅうと抱きついたシロに、ユキは心底幸せそうに、ふわんと甘い笑顔を浮かべた。
きみを縛れたためしがない <完>