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■ きみを縛れたためしがない 14

 スプリングが軽く軋む。目隠しをされて見えない視覚の中でも近づくユキの気配を感じる。だがそれに何かを言おうとしたのに、それを言葉にする前に口が塞がれて舌先が唇を割り開く。舌を甘噛みする力が少しずつ強くなっていき、しまいには頭がぼうっとするくらいに強く吸われた。

「っ、……んっ……」

 何も見えない視界が、いつも以上に感覚を研ぎ澄ます。今日のキスは、これまでにしたどのキスとも違っていて、不安と同時に妙な興奮を誘われる。

「ぅ……」

 生温かい舌が半分ほど入ってきて、唇を唾液でたっぷり湿らせる。ぬるぬるとした感覚が気持ち良くて、シロはとろんと口を開いてユキのされるがままになった。ユキのキスに翻弄されて、まだ充分に構ってもらえていない舌が口内で物欲しそうに蠢く。なのにユキは、口を開いて待ちわびるシロの舌にはそれ以上触れずに、顎から首筋へと唇をゆっくり落としていった。
 ユキの確かな重みと温もりを身体に感じる。
 濡れた舌が胸元へ移動し、突起をふにっと押し潰されると、突然の刺激にシロの身体がぴくぴく跳ねた。

「んっ……っ……ぅ」

 喉奥から上ずった声が弱々しく漏れてくる。ぬるぬると舌先で遊ばれ、そこが恥ずかしいくらいに膨れ上がっているのが見えずともわかる。

「っ、ぁ……っ、ユキ……!」

 恥ずかしくて、顔を隠したいのに縛られたままの両腕がそれを許さない。視界が塞がれていることに、この時だけは少し安堵を覚えた。

「ゆき……」

 いくら呼んでも、答えてくれない。なのに次の瞬間に突然唇を塞がれてれて、息が止まりそうになった。
 根元まで差し入れられた舌に恍惚として、意識が朦朧とする。はあはあと浅い呼吸を繰り返すうち、ユキに縋りたくて仕方なくなる。思うように動かせない身体が、より感覚を鋭敏にして、唇の端からすうっと唾液が流れ落ちていくのがやけにはっきりとわかった。

「ん、……っう、……ぁ……」

 ユキの手がシロの頭を雑に撫で、前髪がぱさりと鎖骨をくすぐっていく。くちゅくちゅと音を立てて乳首を食まれ、ぞくぞくとした快楽が背中を駆け上った。

「っや、……ぁ、……ぁっ」

 痺れるような陶酔が腰の奥に広がって、立てた膝ががくがくと震える。ユキの細くて長い指がすっと太股を撫でる感覚に、シロの身体はびくりと大きく跳ねた。

「ゆ、……っ!」

 ユキの名前を呼ぼうとした瞬間、それを遮るようにペニスを撫でられて息が止まる。硬直したシロから手早く服を脱がせて、ユキは絶妙な力加減でシロの性器を愛撫した。微弱な刺激の合間に時折、きゅうっと強く握られて腰がぶるぶる震える。

「やっ……ぁ、あぁ……っぁ……」

 呼吸をひくつかせるシロの頬に、ユキが無言でキスを一つ落とす。

「ユキ……っ」

 手を伸ばしたいのに伸ばせなくて、ユキの顔が見たいのに見えなくて、声が聞きたいのに何も言ってくれなくて、嫌だ嫌だと暴れるシロの心に反して、刺激を与えられ続けたペニスは先端からたらたらと歓びを吐き出した。
 宝物を扱うみたいな繊細さで扱い続けるユキに、シロの身体はとろとろに溶けて、ユキと一つになれる瞬間を今か今かと待ち侘びる。熱く湿った吐息が肌にかかるだけで、シロの呼吸は跳ね上がった。

 はやく。
 はやく、はやく、とシロは無我夢中でユキを求める。怪我をしている三週間、お預けを食らい続けた身体はあっという間に腰の奥に火照りを灯した。
 ユキを求めて身悶えるシロの尻穴に、たっぷりと唾液の絡んだ指先を静かに沈めて中をぐるぐる掻き回す。ペニスを突き入れるみたいに指を出し入れされて、上ずった声がシロの喉をついた。

「あ、ぁ……っ、ひ、……あ、や、……やだぁ……っ」

 発情したメス猫みたいな声が勝手に漏れる喉をどこか他人事のように聞きながら、シロはただひたすらに喘いで啼かされる。
 始めは指が一本。挿れてすぐのあたりにある箇所が気持ちいいのをユキはちゃんと知っていて、そこをぎゅうっと押されて精液が飛び散る。手の届かない部分を直接的に弄ばれる悦楽。下腹の奥から電流が走って、腰ががくがくして涙が滲んだシロの中を、ユキはさらにもう一本追加した二本の指で掻き回した。生クリームを泡立てるみたいにぐちゃぐちゃにされて、震えながら乱れる。
 ユキ、ユキ、と譫言みたいに繰り返してもっと奥にと求めると、ようやく目隠しが外された。

「……っ」

 数十分ぶりに見たユキの笑顔はとても綺麗で、それだけで胸がきゅんとなる。キスして欲しくて、抱きしめて欲しくて、ユキと一つになりたくて、餓えるようにしてユキに伸ばそうとした手は、だがあえなくベッドに引き戻された。

「ユキぃ……」

 甘えるようにして呼んだ声に、ユキは少し顔を上げてにこっと笑いかけてから、おもむろに顔を下ろしてそのままシロの股間に頭を埋めた。

「っうそ、ちょっと……っ」

 限界まで顔を上げて見下ろした目に、シロの勃起したペニスをユキが口に含んでいる光景が映る。呆然と見つめるうちに鈴口をぺろぺろと舐められ、ちゅぱちゅぱと吸われた。心は、そうじゃない、と叫ぶのに、悦楽に犯された身体はすぐに押し寄せてくる快感に負けて、止めようとする意識が遠ざかる。陶酔に満たされて、だらしない声が次々に出た。

「……っ、は、……く……っ」

 小刻みに喘いでいる余裕なんてなくなって、切羽詰まって追い詰められて、苦しい。めちゃくちゃに身を捩って暴れるシロをユキは押さえつけて、後孔を弄りながら口を窄めてペニスを愛撫する。いやらしく絡まる舌が気持ちいいのに、心が苦しい。ゆき、ゆき、と甘えたように連呼するけれども、求めるものが指で掻き混ぜられるだけの奥に与えられることはなくて、前と後ろを攻められる中でシロは呆気なく達した。

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