■ 並んで見上げたあの空に 5
力の抜けたシロの身体をうつ伏せにして、尻だけ高く掲げさせる。
「シロさん」
振り向かせた顔に蕩けそうな顔でキスをして、半開きの唇に舌を入れる。引っ張り出したシロの舌をちゅるちゅると味わいながら、ユキはすでに熱くなったものを尻の谷間に当てがった。
「っ……ぅ…」
ゆっくりと、だが確実にペニスが中へと侵入する。摩擦されたシロの内壁がユキの熱によって熱を帯びた。
根元までみっちりと結合させられて、奥深く突き上げられる。その間もユキの舌は一心不乱にシロの舌を吸っていて、混ざり合った唾液がシロの喉奥へと滑り落ち腔内を焼いていく。
ようやく唇を離し、口の端から零れた唾液を拭ったユキをシロが睨むと、ユキは快楽に歪んだ目で綺麗に微笑んだ。
「俺、シロさんが全部忘れるくらい感じさせたい。だからいっぱい感じてね」
甘えるように囁いたユキは、シロが答える前に顔を離して激しく動き始める。
浅くまで引き抜かれたペニスが、次の瞬間には奥深くまで突き刺さる。がくがくと身体を揺さぶられる快感に耐えられなかった。
こんなのは初めてだ。
「ぁ、……んっ、ぅ……ぁ、ぁ……ユキっ……やだ、はげしっ、……ぁ……」
「中がきゅうきゅう絡みついてくるよ……シロさんの中が、俺が欲しい、って……っ……」
ユキの荒い息がシロの首筋にかかり、それだけで下腹に力がこもる。あそこがユキを締め付けたのがシロにもわかった。
シロの身体を抱きしめながら腰を振るうユキに攻め立てられて、もどかしさを含んだ快楽が猛烈に強くなる。もっともっとと欲望が叫ぶ。激しく突いて、疼きを鎮めて、と獣みたいに月に向かって吼えたいくらいだった。
「ぁ……あ、も、俺……出ちゃ……っ……!」
気持ちがよすぎて頭の中が真っ白になる。手足をばたばたさせた暴れるシロをユキは力づくで押さえ込んで、一際強く、奥深くまで突き上げた。
「シロさん……っ、おれ、も……っ……」
「あ、ぁ……っぁああぁ……っ!」
シロのペニスが精液をベッドに吐き出すのと同時に、シロの腹の奥でもびゅるびゅると熱いものが注がれる。
はくはくと空気を必死で取り込もうとしているシロを押し潰さんばかりに全体重をかけて脱力したユキは、ふいに顔を上げると、目の前にあったシロの白い首筋に牙を突き立てた。
「いっ……っっっ……!」
激痛と共に、ぷつり、と肌が切れて血が滲む感触。猛獣の牙で急所を貫かれた衝撃が全身に走る。
最後の手段とばかりに死んだフリをして難を逃れようとしたシロに、「意味ないよ、それ」などと声をかけながら、ユキはシロの中から自身を引き抜いて、ぐったりと垂れたまま動かない猫を片手で抱えて浴場へと向かった。
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汚れた身体もすっかり綺麗に洗い清められて、あたたかな浴槽でユキの腕の中に閉じこめられる。
普段なら、風呂嫌いのシロは絶対に浴槽になんて浸からないのだが、死んだフリをまだ続けていたシロをユキはためらいもなく浴槽の中に放り込んだ。溺れそうになったシロを引き上げて、ユキは自分の膝の上に乗せる。そのままシロの腹のところで手を組んで抱き締めたまま、首筋の噛み跡をぺろぺろと舐めた。
生命の危機が去ったことを知り、シロにようやく冷静な思考力が戻る。
「ヤることヤったら殺されんのかと思った……」
確実に獲物を仕留めるための上位種の牙は凶器だ。手加減を間違えたら確実にシロは死ぬ。そんな恐ろしいもので気軽に刺し貫くなんて、と非難の視線を向けたシロに、だがユキはけろりとしていて悪びれた様子も見せなかった。
「俺がさみしくシロさんの写真で抜いてた時、シロさんはさみしい思いしてなかったんだから、このくらい許してくれても罰は当たらないと思うんだけど」
ちらりと振り向いて顔を見ると、ユキは皮肉っぽい笑みを浮かべていたが、瞳の奥はちっとも笑っていない。
──やっぱ気付いたか……。
昔から他人の感情に敏感すぎるくらい敏感だったユキだから、身体を重ねればバレるだろうとは思ったけれど、わざわざ自己申告することもないかと思ってあえて何も言わなかった。当然のようにそれに気付いたらしいユキは、不問にしてやるから噛まれるくらい我慢しろと言っているのだ。
シロの身体を抱き寄せて、髪に口付けてくるユキの態度に変化は見られない。怒っているわけではないのだろう。ただユキ以外に、シロが気に入った相手がいることが不満なだけ。
結局シロは、黙ってユキの腕に身体を任せた。こちらを窺うようなユキの気配を感じながら目を閉じる。身体が濡れる不快感を気にしなければ、浴槽の中でユキとくっつくのは存外気持ちが良かった。
並んで見上げたあの空に <完>