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■ それは陽だまりに似た 15

 大腿骨頸部を骨折したために立ち上がれないユキの腰を、シロが体重をかけないようにして恐る恐る跨ぐ。上半身を深く倒してぐらぐらと揺れるシロの身体を、ユキが無事な両腕で支えた。
 お互いの怪我が治っていない状況で、なんでこんな苦労をしてまでセックスしているのだろうという思いが一瞬胸をよぎる。だがすぼまりに熱い切っ先が触れると、そんな思いもどこかへ吹き飛んだ。
 入り口にぐっと圧がかかり、期待で息が詰まる。待ちわびた熱を求めて全身が震えた。散々慣らされ、柔らかくほどけた入り口を太い刀身が潜り抜け、シロは喉の奥から切れ切れの声を上
げた。


「あ……あ、あぁ――……っ」


 とろとろと滴る蜜のような声が長く尾を引いて、寝室の隅々に吸い込まれる。
 焦れて泣くほど慣らされた内側が、歓喜にうねってユキを受け入れた。じりじりと侵食してくるユキをせかすように、蕩けた肉壁がユキを締めつけ、奥へと誘う。


「あっ……ひ……あぁ……っ!」


 素直に誘いに乗ったユキが奥まで突き上げてきて、目の前が白くなった。内側がユキで一杯になり、息苦しいくらいなのに気持ちがいい。中で接するものの熱さに、下半身が溶けてそのまま崩れてしまいそうだ。
 ユキの胸に額を付けて震えていると、ユキに腰を捕まえ直された。


「あ、や……ま、待った、待っ……あぅ……っ!」


 シロの身体を持ち上げてじっくりと抜かれていく感触に制止の言葉を上げたが、すぐに離され、再び奥まで押し込まれて瓦解した。
 人工関節接合手術を受けたとはいえ、まだ完治には程遠いユキは、欲望に突き動かし腰を振るような真似はできない。ただただシロの身体を持ち上げては落とす、そのゆったりとした動きで何度も奥を突かれ、深々と吞み込まされた状態で腰を回され、シロはひっきりなしに甘い声を上げた。
 充血した内襞を一杯に押し広げられ、弱い場所を硬い幹でこすられるのがたまらなくよかった。柔らかく蕩けた奥を切っ先で突き上げられるたび、体の奥に潜む快楽が引きずり出される。
 自ら動かせるのはもはや足の指先だけ。ユキの胸に腕をついて突っ張ることも、ユキの手を止めることもできず、繰り返されるその行為にただ身体を震わせるしかなかった。
 必死で快感をやり過ごすシロの内腿をふいにユキが撫で上げてきた。掌の熱さに反応して、シロは一際高い声を上げる。


「シロさん、もういきそう?」


 ぐっと奥を突かれて声が途切れた。内股を這っていた掌が雄に伸びて、シロは爪先で力なくシーツを蹴る。


「や、触んな……で……っ、や、あっ、あぁ……っ」


「やなの……?」


 軽く息を乱したユキが、シロの身体ごと揺すり上げる。過敏になった内壁を繰り返し突き上げられると腰の奥が甘ったるいだるさを訴えてきて、シロはユキの胸に顔を押しつけた。
 もう声を殺すこともできない。ユキの動きに合わせ、喉の奥から嬌声が漏れる。
 ユキはシロを揺さぶりながら、シロの頬から額に舌を這わせる。その上、片手を胸に回し、硬く尖った乳首を指先で転がしたりするので、シロはもう目も開けていられない。
 関節が緩んでほどける。自分で自分の体を支えきれない。絶頂を求めて身体の筋肉が引き絞られ、シロは固く目をつぶった。


「あぁ……っ、あっ……ん……ん……っ!」


 びくびくと痙攣するように体が震え、次いで力なく倒れる。脱力したシロに気づいたのか、ユキがゆっくりと自身を引き抜いた。長々と快感を与えられ続けた体はもう指を動かすのも億劫だというのに、引き止めるように収縮する内側が浅ましい。
 ユキの身体の上に乗せられ、見上げたユキの額にはうっすら汗も滲んでいたが、表情にはまだ余裕があった。こちらは忙しない呼吸を繰り返し、容易に動くこともできないのに。瞼がやたらと重く、下手をすると瞬きの途中で気を失ってしまいそうだ。
 無防備な顔でユキを見上げていると、目を細めたユキが鼻先にキスをしてきた。頰や、唇の端にも続けてキスをされ、くすぐったさにシロは小さく笑う。
 柔らかくほどけた笑顔をユキは愛しげに見詰める。シーツの上に力なく投げ出されたシロの手を取り、包帯に包まれた指先にキスをする。そのまま肘に向かって唇を滑らされた。普段日に当たらない、腕の内側の柔らかい部分にきついキスをされる。思わず喉を鳴らせば、ユキと目が合った。
 最後にシロの唇にキスをして。
 唇を触れ合わせたまま、ユキが囁いた。


「……愛してる」


 吐息が掠れるだけの声で紡がれた言葉は、シロにすら聞かせるつもりはなかったのかもしれない。優しげな顔の奥に潜む執着を垣間見て、シロは睫毛の先を震わせた。
 唇の表面をユキが舌先でたどってきて、いくらか呼吸が落ち着き始めていたシロは素直に応じ、忍び込んできた舌を迎え入れた。

それは陽だまりに似た <完>

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