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■ きみを縛れたためしがない 4

 ──シロさん、お風呂嫌いでしょ?だから今日のお風呂は特別製にしたから、楽しみにしてて。
 


 そんなことを湯をためながらユキが言っていたのを、シロは浴槽に脚を突っ込んでからようやく思い出した。

「……っ、ユキ!何これ?!」

「おいしそうでしょ?」

 先に浸っていたユキは、湯をかき混ぜながら得意げに笑う。
 甘く漂ういちごの香り。それ自体は確かにおいしそうだったけれど、でもそれより何より問題なのは、お湯がまるでそれ自体が意思を持っているかのようにぬるんとまとわりついてきたことだった。片脚を上げると、湯が水面から糸を引く。ぱしゃぱしゃ、ではなく、ぺちゃぺちゃという重い粘ついた音。

 ──これは、なんかやばいやつだ。

 見たことのないシロモノだったが、知らないなりに身の危機を察知したシロは、そのまま脚を引き抜き身を翻して風呂場を出ようとした。
 が。

「っ、シロさん!」

「…ぅあっ……!」

 つるん、と床を滑って脚が宙に浮く。後方に重力を感じ、頭から落下する感覚に衝撃を覚悟して目を閉じたシロだったが、予想した背中や後頭部への打撃はいつまて経っても訪れなかった。
 恐る恐る開けた目に、最初にユキの形のいい顎が映る。それから少しずつ視線をずらしていってユキの腕の中にいる自分を確認し、ようやく、ユキが手を伸ばして自分を抱き寄せてくれたために転ばずに済んだことを知った。

「……あー、びっくりした。シロさん、滑るんだから急に動いちゃダメだって」

 ただでさえ滑りやすい浴室を、さらに滑りよくしたのは誰だと思いつつ、助けられたお陰で怪我を免れたのは事実なので不満が言えない。
 ぶすりと黙り込むシロをユキは浴槽に引きずり込んで、背後から抱きすくめた。ユキの引き締まった胸板とシロの薄い背中が触れ合うと、ぬるりと滑る。

「……っ」

 気味の悪さと快感が相半ばする不気味な感触に、思わず息をのむ。そんなシロに微笑みかけながら、ユキはシロの目の前で湯をすくって見せた。

「これね、研究所の試作品。お風呂嫌いのシロさんでも、これなら喜んでくれるかなぁと思ってもらってきちゃった。ちゃんといちごの味もするんだよ。食べてみて?」

 そう言ってユキはにこっと花が咲くみたいに笑ってくれる。けれど、シロの口許に差し出される指は、ほのかにピンク色でねとねととしていて卑猥だ。
 む、と口を閉じているとユキの指が唇を突っつく。ほら、と何度か急かされて、シロはようやく口を開けた。
 目の前に差し出されたユキの人差し指を口に含む。すぐにいちごの香りと味がふわりと口内に広がった。

「んっ……」

 人工の香料と甘味料なのだろうが、とろみのせいか、そうは感じさせない。ゆるめに作ったゼリーのような感じ。いちごの酸味と甘みが脳髄を走る。不思議な味と食感をもっとちゃんと確かめたくなって、指についたそれを舌で絡め取った。

「……んぅ、っ、……ふ……」

 とろみを舐めて吸い上げると、ユキがわずかに笑いを含む。

「あんま煽ると、楽しむ間もなく俺に食われちゃうよ……?」

 艶かしい声で言われ、慌ててユキの指から口を離して手ではたき落とす。かっと頬が熱くなった。

「そういうつもりじゃ……っ……!」

 顔を背けたシロを喉奥で笑い、あらわになった耳朶にユキが舌を這わせる。びくん、と震えた白い身体の肩や首筋に噛みつき、赤い痕を残していく。甘噛みを繰り返しながら、跳ねて飛んだピンク色の液体を舐め取った。その度、シロの身体はぞくぞくと震える。

「シロさん、甘くておいしいね……」

「……っ、舐めんな……っ」

「ヤダ。料理はソースまで残さず食えって、シロさんいつも言ってるじゃない」

 舌が這わせながら、指がぬるりと胸を撫で回す。指の腹が突起の表面をふにふにと押し潰すたびに震える身体を止められない。なのにユキはそんなことを言って笑う。

「これは、料理じゃ、……っぁ……」

「料理だよ。シロさんのいちごソースがけなんて、俺のためのご馳走以外のなにものでもない」

 夢見るようにうっとりとそう言うユキがあまりに幸せそうで、反論する気が失せる。視線をそらして、なるべく意識しないようにと心がけている間にも舌は首筋を這い、さらにはユキの手のひらが尻の谷間を這った。撫ぜられる感触でよくやくそれと気づいたシロだったが、ぬめるいちごの海に沈められた身体には抵抗する術などないに等しい。

「ぁ、……っぅ、ん……っ」

 何の準備もしていないのに、指が難なく根元まで入る。摩擦感ゼロ。すぐに引き抜かれると、物足りなそうに入り口がひくひくと収縮した。
 続けて二本の指をねじ込まれて中を開かれる。いつもなら最初は少しきついはずなのに、ぐちょぐちょと出入りする指に既に腰が砕けそうだった。

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